「隠れ家感」や「行きにくさ」が集客につながる
マンション1階の路面店には、「視認性が高い」「店内の様子が見えるので、入店しやすい」といったメリットがあります。一方マンションの一室の店舗には、こうしたメリットはありません。しかし、「行きにくい場所だからこそ、どうしても行ってみたい」「皆が知らない店を自分は知っている」とった心理が働くので、集客に成功し繁盛店になることは珍しくありません。恵比寿にある麻辣香鍋の店「中村玄」は、1997年に恵比寿のマンションの2階にオープンした「201号室」が原点。看板はなく表札を出しているだけで、「201号室」、「中村昭三」、「中村圭太」、「中村玄」と時代に合わせてリニューアルしながら営業を続けています。
2023年には、学芸大学の商店街の路地裏にあるヴィンテージマンションの一室に割烹料理が楽しめるカウンター酒場「コーヨーハイツ」がオープン。こちらの店舗も普通のマンションに見えるドアが店の入り口で、店内はカウンター15席の隠れ家空間になっています。
「コーヨーハイツ」を運営するのはbros&co.。学芸大学や三軒茶屋周辺のエリアで新店舗の出店を計画するも、激戦区でテナント探しに苦戦したため、株式会社上昇気流が提供する独立・開店パッケージを利用して、物件に巡り合ったそうです。
マンションの一室に開業するために必要なことは?
飲食店を開業するためには「飲食店営業許可」を取得することが必須。これはマンションの一室で開業するときにも同じです。取得するには、管轄の保健所に申請の手続きをして検査に合格しなければなりません。マンションの一室を店舗とする場合、施設基準を満たせるかどうかが第一関門となるでしょう。例えば次のような基準があります。・用途地域を満たしている
・厨房とそれ以外の区画が明確に仕切られている
・調理場や水回り設備が保健所の定める基準を満たしている
・蛇口の形状が改正食品衛生法の基準を満たしている
・冷蔵庫が設置されている
・扉付きの収納がある
なお、自治体によって施設基準には違いがあるため、保健所に事前相談したり、着工前に図面を見せたりしながら開業準備を進めるのが一般的です。

改装工事ができない物件では開業は難しい
マンションの一室で、はじめから上記のような基準を満たしている物件を見つけるのは難しく、改装工事が必要になるでしょう。ここで問題になるのが、賃貸物件で工事が認められるケースは稀であることです。また、そもそも使用を居住目的に限っており、飲食店の開業を想定しておらず、オーナーや管理会社から許可承認を取る必要もあります。事務所可で募集をしている物件であっても、不特定多数の出入りがある店舗を利用不可としているケースが多いでしょう。こうした理由から、開業は難しい物件がほとんどであると考えざるをえません。
こっそり営業すると、確実にバレるトラブルに発展する
では、勝手に飲食店を開業した場合、どうなるでしょうか。不特定多数の人の出入りや臭いや煙、騒音、ゴミなどから住民が不安を抱き、トラブルに発展する可能性もあります。さらに、苦情はオーナーや管理会社の耳に入るでしょう。営利目的で物件を使用すると、家賃や光熱費が課税対象となるため、税務面から営業している事実がバレることも考えられます。契約不履行を理由に退去を迫られるかもしれません。さらに、契約不履行から退去、つまり閉店となれば、お客さまの信用も失います。
マンションの一室での飲食店営業は目新しさがあり、話題を呼びやすい立地といえますが、さまざまな壁を越えなれば開業にたどり着くことはできません。
それを踏まえた上で、まずは「事務所可」の物件を探し、確認・相談していくことが物件探しでは求められます。一方でマンションの一室に固執せず、アンテナを高く張り、さまざまな物件に目を向けることも、運命の物件との巡り合うために大切にしていくべきでしょう。